ドクターブログ

インプラントの予後

 一般的にインプラント治療前および治療中の患者の関心事は,治療の期間や費用,手術の侵襲度などが主なものであろうが,インプラント治療が完了し,機能回復の恩恵を享受した直後から,患者の関心事が「いつまでこのまま無事に,快適に機能するのか?」といったものに移行するのはごく自然なことであろう。その答えをわれわれ担当医も患者同様,むしろそれ以上に求めなければ,その治療に対して真の意味で責任を負っているとは言えないのではないでしょうか。
 そのため,インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎の発生率に関する研究報告が近年多くなされるのはごく自然な流れであり,最新のシステマティックレビューでは,周囲粘膜炎が43%,周囲炎も22%にみられたと報告されている卜 この結果はもはや歯科医師が従来抱いてきたインプラント予後に関する予測が幻想だったと言っても過言ではないかもしれません。
 周囲粘膜炎や周囲炎の原因には,細菌感染,力学的オーバーロード,またはその両方とする諸説があり,「何が初発なのか?」または「どのような相互関係により重症化するのか?」という疑問も非常に興味深いトピックスではあるが,この解明は今後の研究を待ちたいと思います。
 しかし少なくとも、われわれが現時点で知り得るところである歯周炎とインプラント周囲炎の相違点に関するレビュー2)と,原因菌による侵襲と宿主免疫の平衡により成り立つとする病因論,重度歯周病の既往歴をもつ患者のほうがインプラント周囲炎に罹患しやすいというレビュー、インプラント治療後の患者に対する細菌学的報告をつなぎ合わせて考えると,歯周病原細菌が主因と考えることに矛盾は感じない.よって,適切な細菌コントロールが,周囲粘膜炎とそれに続く周囲炎の治療と予防に有効だとすることに異論はないでしょう。

糖尿病と歯科治療

 糖尿病は慢性の代謝性の疾患のため,通常の状態では急変はほとんどありません。しかし,低血L糖や高血糖による昏睡の可能性をもっています。糖尿病性昏睡には,⓵インスリンの絶対欠乏からなるケトアシドーシス昏睡,⓶高血糖高浸透圧痛候群による昏睡,⓷低血糖による昏睡がありますが,歯科医院を来院する糖尿病患者で救急の対応として最も気をつけるべきは「低血糖」です。
 血糖値70mg/dL以下になってくると,突然,冷汗が出たり,心臓がドキドキしたり,めまい,脱力感など,さまざまな症状が現れて,血糖値30mg/dL以下になると意識消失して昏睡状態に至ります。
 低血糖ではブドウ糖10gを服用してもらうか,意識がない場合,点滴で20%ブドウ糖50mLの静注を行いますが,前述のとおり,診療室では砂糖摂取でもジュースを飲むでもかまいません。高血糖やケトアシドーシスでも昏睡を起こしますが,低血糖のほうが危険ですので,どうしてもどちらかわからないときは,低血糖への対応を最初に行います。
 「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」
●糖尿病は歯周病を悪化させる.
●歯周基本治療を行う場合,抗菌薬の全身投与は無効だ
 が局所投与は有効である。
●局所麻酔のエピネフリンでの血糖上昇は一過性であ
 り,安全に使用可能。
●サポーティブペリオドンタルセラピーは年3~4回よ
 りも短い間隔で行う。
●歯周外科治療を行う場合は,HbAIc7%(6.5%)未満が
 望ましい。
*医科手術での血糖コントロールは150~200 mg/dL,HbA1c6.5%未満が望ましいとされているが,緊急時は手術によるメリットと創傷治癒遅延や易感染性によるデメリットを勘案して決定する。
 糖尿病の患者さんには易感染性が認められますが、「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」によると,血糖値がコントロールされた糖尿病患者と健常者の抜歯の予後に差は認められないものの,“コントロールが行われていない糖尿病患者”では,
●抜歯を行う際には,抜歯後の感染予防に注意を払
 う必要がある
●インプラント植立は予後が悪い可能性を考慮しな
 ければいけない
●歯周外科治療はHbAlCが7%(6.5%)未満である
 ことが望ましい   〔※( )は日本人での推奨値〕などが記されています。 
 インスリンの使川や血糖降下薬の服用がある患者さんは,血糖の変動が難しいことがありますから,なるべぐ食事をしてから早めの時間帯”に治療の
予約をとるのが安心です.
 また,糖尿病の患者さんでは,血管病変として心筋梗塞や脳梗塞,糖尿病性腎症などの合併症があり,「抗血栓療法薬」を使用していることがあるため,それらの併用薬にも注意しなければなりません。

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