ドクターブログ

エンド・ペリオ

 根管内と歯周組織とは,根尖孔や根管側枝を介して交通しており,双方の感染が互いに波及しあった場合,歯内、歯周複合病変,いわゆるエンド・ペリオ病変を生じることがあります。
 このエンド・ペリオ病変をその病態によって5つのタイプに分類できます。根尖に及んだ辺縁性歯周炎が上行性歯髄炎を引き起こすタイプについては,原因が明らかなことからその診断は比較的容易で,治療方針もシンプルなものとなるのに対し,その他のタイプについては,エンド・ペリオのいずれの病変がどこまで感染を及ぼしているか,といった診断を臨床的に行うことは難しく,個々の症例に応じた多角的な診査と正確な診断が求められます。 
 エンド・ペリオ病変では,根管内・軟組織それぞれの状態を診査し,問診による症状の経緯の把握やX線所見等とあわせた慎重な診断が求められる.エンド・ペリオ病変が疑われるケースでは,まず根管治療を行い,十分な経過観察によって歯周ポケットやX線透過像の変化を確認するまでは,歯周ポケット内にアプローチすべきではありません。また,エンド・ぺリオ病変と鑑別すべき病態についても理解しておき,複数の病因の可能性を考慮しながら治療を進めていく必要があります。
 患者さんに対しても,治療の経過とともに原因が明らかとなる疾患であるため,ある程度時間をかけた治療が必要となることと,その確定診断に応じてその後の抜歯を含めた複数の治療の可能性があることを術前に十分説明し,理解を得ておくことが重要です。

歯髄炎検査と診断

適切な診査を行い,正確な診断を導き出すことは歯内療法を成功させるうえで垂要であり,いかなる処置よりも先立って行われるべきことが診査と診断です。そして,正確な診断に基づいた適切な処置がなされて,初めてわれわれは患者利益を守ることができるのです。
 なお,正確な診断とは,ただ単に症状を見つけることではありません。「歯が痛む」というのは症状であって診断ではない。たしかに「歯が痛む」疾患の一つに根尖性歯周炎があげられますが、ほかにもう蝕や歯周病,非歯原性疼痛など歯に痛みを引き起こす疾患は多く存在するため,それだけを理由に歯内療法を行うのはたいへん危険なことです。すなわち,診断とは疾患を特定することであり,その疾患に対する治療法を選択する第一歩なのです。
 歯髄や根尖周囲組織の病理組織学的な状態と臨床的な兆候とを関連させることは困難です。つまり,かつてから用いられてきた歯髄と歯周組織の臨床分類は,実際の歯に起きている歯髄と根尖周囲組織の病理組織学的状態を:正しく示しているものではないということです。そして,ただ単に臨床的な兆候から病理組織学的な診断名を導き出そうとしても,正しい処置を選択できず,良好な予後へと導けないことがあります。具体的な例としては,症状のない歯に生活歯髄療法(歯髄保存療法)を行ったが,実際の歯髄の病理組織学的な状態は慢性全部性歯髄炎であったという場合である.この場合,生活歯髄療法の手技そのものにエラーはなくとも,歯髄を保存することは当然不可能である.
 日常臨床においては,患者が訴える症状と診査結果に矛盾が生じてしまい,診断名がつけられないこともあります。その際には,確定診断を急がないことが大切です。確定診断を得るために,時には診断的治療介入が必要となることもあります。治療を行わないで待機的診断が必要になることもあります。歯科治療は不可逆的な処置が多く,診断名がつかない時はより慎重な対応が求められる.また,診査診断と治療の意思決定が異なる場合もあります。診査診断はあらゆる主観を排除して行われるべきであるが,治療の意思決定は患者利益が最優先されるべきです。
 診査診断はすべての処置に先立って行われるべきものであり,治療法決定の羅針盤です。歯髄と根尖周囲組織の診断はさまざまな診査をパズルのように組み合わせなければならないことも多く,複雑となる場合もあります。しかし,適切な診査診断を行わずただ処置を行うことを急ぐということは,いくら日常臨床が忙しかろうとも厳に慎まなければならない.狂った羅針盤での航海が困難をきわめることは容易に想像がつくであろう。

お問合せ