ドクターブログ

根管治療

 根尖性歯周炎の原因は細菌であり、細菌を除去または減少させる(Bacteria1 reduction)手段としては「根管拡大形成」「根管洗浄」「根管拡大」があります。このうち、根管内の細菌除去に中心的な役割を果たすのは根管拡大形成です。しかしPetersらは,Ni-Tiロータリーファイルを用いた根管拡大形成には限界があり,Nijriロータリーファイルでも触れられない根管壁面が35%以上あると報告しています。根管系は複雑で、側枝やイスムスなども存在しているため,それらすべてに追従して根管拡大形成を100%行うことは困難のことです。また,細菌は象牙細管内にも侵入が可能であり,その侵入深度は細菌によって差があります。Shupingらは,感染根管治療における“Bacterial reduction”のどの過程がどのくらい細菌の減少に効果があるのかを調べた。その結果,拡大終了時に細菌培養試験で陰性が得られた症例は61.9%であったが、水酸化カルシウム貼薬後には92.5%の症例で陰性が得られたと報告しています。また,本研究では洗浄剤として1.25%のNaOCI(次亜塩素酸ナトリウム)も用いており,洗浄剤に生理食塩水を用いた1998年のDaltonらの研究と比較して,NaOC1を用いた機械的・化学的拡大の優位性を示している。本研究を考察すると,“Bacterial reduction”において機械的拡大は大きなウェイトを占めているが,根管拡大形成だけでは十分に根管内の細菌を除去することができない。それがゆえに,根管拡大形成で除去できなかった細菌に対して,根管洗浄と根管貼薬を行うと効果的な細菌除去が必要であるということが考えられます。

義歯の長期使用による変化

義歯の調整は日常の歯科臨床において,最も高い頻度で行う診療行為の一つである。8020運動の効果により義歯装着者の割合は減っていると思われますが,最近のデータでも多くの高齢者が義歯を装着しています。さらに今後,高齢者の増加により義歯の総数自体は増加するものと予測されます。
 また最近,義歯の装着にとってあまり条件のよくない症例(たとえば高度に骨吸収し,粘膜が非薄な顎堤)が増加しているように感じます。そのため,装着後の義歯の調整に苦慮されている先生方は多いのではないでしょうか。場合によっては義歯製作よりも,調整に多くの時問と労力を費やすこともあるかと思われます。また,特に部分床義歯では新義歯装着時など,口腔への装着が困難な場合もあります。
 義歯を長期にわたり使用すると,人工歯が咬耗し,咬合高径の低下,咬合の不調をきたします。その結果,咀嚼時の疼痛,咀嚼能率や維持・安定性の低下などが生じます。材質別では陶歯や硬質レジン歯に比べ,レジン歯は咬耗しやすく,また非咀嚼側に比べ咀喘側で咬耗しやすい.特に臼歯部人工歯の咬耗が顕著な症例では,下顎前歯部が上顎義歯を突き上げることにより,上顎前歯部におけるフラビーガムの形成を助長する。部分床義歯では正しくクラスプが設計されていても,繰り返しの着脱により永久変形や鈎腕の摩耗などが生じ,維持力の低下が生じます。
 一方,上述した義歯自体の変化と同時に生体側にも変化が生じる.生体側の変化としては顎堤や鈎歯などの残存歯の変化などがあります。義歯を支持する顎堤は常に生理的な骨吸収を生じており,義歯装着当初は維持・安定が良好でも,経年的に義歯床粘膜面と義歯床下粘膜との適合性は低下し,義歯の維持・安定性も低下します。糖尿病などの全身性代謝疾患によりさらに骨吸収は助長されます。
 このような状況下では,義歯床下粘膜における咀喘圧の分布は不均等になっており,疼痛,粘膜の変形,褥瘡性潰瘍が生じ,骨吸収が加速する.また,この不適切な義歯の長期使用による慢性的な機械的刺激により,フラビーガムや義歯性線維症が引き起こされることもあります。
 

非歯原性疼痛

 筋・筋膜性疼痛とは,筋の中に存在するトリガーポイント(以下TP)とよばれる,「こり」のような部分から生じる痛みをいう.TPによる痛みの特徴は,鈍痛で非限局性であり,患者は「この辺りが痛い」と表現することが多く、筋の運動によって疼痛は増悪し,慢性化により自発痛も生じるようになります。筋に局所的な圧痛部位があり,その「しこり」の部分(索状硬結;taut band)の痛みによって,周辺領域への特定のパターンをもつ関連痛を生じます。この痛みは,「疼痛発生部位」と「疼痛感受部位」が異なるため,臨床的に誤診につながりやすく,最大の問題点となる.本症例のように,筋・筋膜性疼痛が生じ歯へ関連痛を生じることを「筋・筋膜性歯痛」とよびます。
 関連痛のメカニズムは,痛覚神経の多数の一次ニューロンが,一つの二次ニューロンに収束していることと,痛みの慢性化により中枢神経が過敏化(中枢感作)を生じているために,疼痛発生源を混同することで生じると考えられています。このような異所性疼痛に対処するには,部位特異性をもった関連痛の生じ方を把握しておく必要があります。口腔顔面領域に関連痛を生じる代表的な筋肉である「咬筋」と「側頭筋」の関連痛の生じやすく、咬筋は主に上下顎の臼歯部へ,側頭筋は主に上顎へ関連痛を生じやすい。

骨粗鬆症とパノラマレントゲン写真

 わが国では高齢者の増加に伴い,骨粗新症の患者数は約1,280万人と増加の一途をたどっています。そのうち約80%は女性であり,50歳以降は閉経後骨粗鬆症が急増することが知られています。また,骨密度が若年者平均量(YAM)の70%未満で骨粗鬆症と診断されますが,この基準では75歳以上の女性のうち半数以上が骨粗鬆症であると推定されています。なお、骨粗鬆症の関連骨折である大腿骨頚部骨折は1987年の全国調査において年間約5万人でしたが,2012年には年間約17万人と急速に増加しています。本骨折は寝たきりの原因となるばかりではなく,受傷後の生命予後を短縮させるため,医療経済的問題と併せて大きな社会問題とも考えられています。
 このような背景から、当院ではおおむね50歳以降で骨粗鬆症のために骨折を起こす可能性が高い女性を早期に発見して有効な予防手段を講じること
により,住民の健康寿命の延伸に歯科領域から貢献することを目的とした取り組みを行っています。
 パノラマX線写真において下顎骨皮質骨の形態が高度変化(3型)を示すものは,骨粗鬆症性骨折の発症リスク,特に非椎体骨折リスクが約8倍あり,将来の骨粗鬆症性骨折の発症リスクを推測する手段として有用であることがワシントン大学のBollen,Taguchiらにより示されています.パノラマX線写真における下顎骨下縁皮質骨の形態については,田口らの方法によるとI~3型に分類されますが,骨密度が正常である場合、下顎骨の皮質骨形態の内側表面はスムースであり(I型),低骨密度の場合には下顎骨の皮質骨形態が高度粗粗鬆化(3型)を示すとされています。
 こうしたことから当院ではパノラマX線写真による骨粗鬆症スクリーニングにより,おおむね50歳以降の女性の骨粗鬆症のリスクを予備的に判定し,医科への受診勧奨を行っています。

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