ドクターブログ

睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療

 睡眠時無呼吸の病態メカニズムは,気道が物理的に閉塞する「閉塞性」と呼吸筋を支配する脳幹部の異常により呼吸運動が停止する「中枢性」,両者が混合する「混合性」に分けられます。臨床では95%以上が「閉塞性」と「混合性」であり,歯科的な対応が可能です。マウスピースの治療が奏功するのが5~8割といわれています。すなわち,日本では300万人潜在するともいわれるSAS患者(睡眠時無呼吸単独は1,000万人ともいわれる半分以上が,歯科的に治療できる可能性が考えられます。
 閉塞性睡眠時無呼吸では,睡眠中に弛緩した舌や軟口蓋が咽頭に沈下し気道を閉塞します。一般に閉塞は舌根部(中/下咽頭腔)で起こるイメージがあるかもしれませんが,実際には中/下咽頭腔単独で起こることは少なく,ほとんどのケースで閉塞は軟口蓋部(鼻咽腔)で起こります。鼻咽腔単独が約半分,鼻咽腔と中/下咽頭腔の併発が約半分といわれています。

口臭

 口臭の発生源としては,口腔内からの生理的口臭,歯科・口腔領域の疾患由来,耳鼻咽喉科領域の疾患,内科疾患などがあります。癌や組織の壊死による化膿性疾患はタンパク質を分解するため,いわゆる腐敗臭を生じます。
(1)口腔内から発生する生理的口臭は,主に唾液成分を原材料として発生する口臭です。唾液や舌から検出されるグラム陽性菌であるSolobacterium mooreiなどが持つβ-ガラクトシダーゼと,強力なタンパク分解酵素であるジンジパインを分泌するPorphyromonas gingivalisなどの共同作用により化学的に安定であるムチンが分解されて,揮発性硫黄化合物が発生します。唾液の量や質(ムチンの量など)と関連するため,自律神経系の影響を受けることになります。
(2)歯科・口腔領域の疾患由来の口臭には,歯周病(歯周炎・歯肉炎),舌苔,粘膜疾患,清掃不良な義歯,多数歯にわたるう蝕,悪性腫瘍などがある。舌苔は消化器疾患などの影響を受け舌乳頭が伸展し,その間隙に剥離上皮,粘液,細菌,食物残澄が沈着して形成され,口臭の原因となります。
(3)耳鼻咽喉科領域の疾患として,副鼻腔炎,扁桃腺炎,上気道や中咽頭癌などがある。ほかに扁桃結石,膿栓も列挙されることが多いが,扁桃腺の解剖学的形態から病的疾患とは考えられず,その寄与がどの程度かはよく分かっていません。
(4)内科疾患由来としては,糖尿病,肝疾患,腎疾患、胃疾患などがあります。これら疾患では、血液中の代謝産生物が、鼻腔、肺胞経由で排出され鼻腔,口腔で検出されます。逆流性食道炎やピロリ菌による胃炎、肝硬変などと口臭との関連が報告されています。また、遺伝的疾患であるトリメチルアミン尿症があります。

エナメル質形成不全

 歯質の形成異常はエナメル質に最も多く起こり,その症状は多岐にわたるが,ほとんどの場合におい小児期の歯の萌出とともに存在が明らかとなります。しかし,エナメル質の形成障害は小児期だけでなく,将来の不正咬合や歯の疾患に大きな影響を及ぼす可能性が大きいため,その症状を断片的に捉えてはなりません。小児期の患者は成長過程にあるという観点から,現在の症状を経過点の症状と考え,小児期からの管理と加療を行う必要があります。
 歯は一度形成されると,骨のような再形成がなく,障害は歯に刻まれます。特に,エナメル質の形成障害は萌出途中の発育異常であり,しばしば全身的な疾患の一症状を示すということを忘れてはいけません。
 エナメル質形成障害の原因を人別すると,「遺伝子に起因するもの(遺伝的要因)」と「遺伝子に起因しないもの(全身的要因,局所的要因)」,「原因不明のもの(第一大臼歯・切歯限局性エナメル質形成不全)」に分かれます。遺伝子に起因するものは遺伝性エナメル質形成不全症であり,すべての歯が罹患し,血族内で遺伝します。後者はエナメル芽細胞の機能が障害されたために引き起こされるエナメル質減形成,あるいは石灰化不全のことをいい,総じて「エナメル質形成不全」と呼ばれています。
 一方で,エナメル質形成不全の存在が近年になって明らかになった.実のところ,罹患している患者は予想以上に多いにもかかわらず,日本における原因不明のもの(第一大臼歯・切歯限局性エナメル質形成不全)の認識度は低い.われわれは,このエナメル質形成不全を,う蝕や単なる着色として見誤ったり,見過ごしたりしてはいないだろうか。

歯科と健康寿命

認知症に至る経過として,歯の喪失によリ咀嚼機能が低下し,脳への刺激が減少することで脳の認知領域の退行|生変化が起こ
り,認知症になりやすくなる可能性があります。また,咀嚼機能低下によって噛みづらい生野菜などを避けるようになり,ビタミンなどの栄養不足が生じることで認知症発症リスクが高まることも考えられます。さらに歯周病は歯の喪失原因であるとともに歯周組織の慢|生炎症を引き起こすため,さまざまな物質が血液を介して脳に影響し,認知症の発症リスクを高める可能性もあります。
 歯を喪失して義歯を使用しないと,しっかり噛み合わせることができなくなるため,下顎が不安定となる.下顎の不安定は
頭部の不安定を招く。その結果,身体の重心が不安定となり転倒リスクが上昇する可能性があります。
 その他,多くの研究で指摘されているとおリ,歯周病から脳血管疾患,心疾患および糖尿病への経路があり,そこから要介護リスクが高まる可能性があります。
 要介護となる原因のうち,歯科口腔保健との関連が考えられるものを合計すると55%となる。これに近年,口腔との関連が指摘されている呼吸器疾患(2.4%)を加えるとさらに構成割合は増える。いずれにしても,要介護となる原因の半分以上が歯科口腔保健と関連するといえます。
 近年の研究で,健康な歯を多く保つことが要介護状態を防止して健康寿命を延ばすことにもつながる可能性が明らかになってきました。しかし,直近の歯科疾患実態調査(2011年)において平均20歯以上であるのは69歳までで,要介護者が増える70歳以上では20歯を下回っていることが示されている.8020運動が国民に浸透し,保有歯数が増えてきたものの,健康寿命を延伸するためにさらに歯を残す努力が必要であるといえます。
 永久歯の主な喪失原因は歯周病とう蝕です。歯周病予防には歯間部のブラッシング,う蝕予防にはフッ化物応用など,すでに科学的に有効性が評価された手段があります。これらの予防方法の普及を通じ,人々の健康寿命を延伸のために歯科の役割がますます大きくなっている.

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