ドクターブログ

MTAを用いた生活覆髄療法

 生活歯髄療法において,細菌感染からの封鎖性を担保するものは覆髄材と歯冠修復です。ある特定の材料を覆髄材に用いることで生活歯髄療法の成功率が単純に高くなることはなく,覆髄材を選択する際のコンセプトが生活歯髄療法の成功率を向上させます。生活歯髄療法における覆髄材のコンセプトは,露髄した歯髄の治癒は,ある特定の材料の薬効に依存するものではなく,覆髄材の細菌漏洩を防止する能力によるものです。
 臨床的にはこれまで覆髄材として,酸化亜鉛ユージノール,グラスアイオノマー(レジン強化型グラスアイオノマー),レジン,水酸化カルシウム,MTAなどが用いられてきました。なかでも水酸化カルシウムは1921年にその使用法が発表されて以来,何十年にもわたり覆髄材のゴールドスタンダードとしで長く生活歯髄療法の臨床で用いられてきました。水酸化カルシウムは優れた抗菌性をもつ材料であり、Direct pulp cappingにおいて高い臨床成績をあげています。しかし,水酸化カルシウムは歯髄表層に炎症が持続すること,形成されたデンティンブリッジにトンネル状の欠陥が見られること,接着性を有していないこと,経年的に崩壊してしまうことなどの欠点が指摘されています。そこで近年になり,水酸化カルシウムのいくつかの欠点を補う材料としてMTAが注日され,わが国でもMTAが覆髄材として薬事承認を受けて臨床で高い成果を上げています。覆髄材としてのMTAに関してはさまざまな検証がなされており,古くから用いられてきた水酸化カルシウム製剤と比較してデンティンブリッジの形成,質や厚み,歯髄の炎症細胞の存在程度,歯髄保存などの点においてMTAのほうが良好な成績を示すことが報告されています。もはやMTAが水酸化カルシウム製剤と比べて,生体親和性が高く,生物学的な優位性を示すことに異論はないであろう.また,Direct pulp cappingにおいてMTAと水酸化カルシウム製剤を用いた場合の成功率の比較として,Menteらは統計学的に優位差は認められないが,水酸化カルシウム製剤が時間とともに成功率が下がる理由として封鎖性が損なわれることとし,MTAの細菌漏洩に対する優れた封鎖性が,経年変化を伴っても成功率が低下しない理由であるとしています。またLiらは,メタアナリシスの研究においてもMTAは水酸化カルシウム製剤と比較し,Direct pulp cappingでは優れた性質を示すことを報告しています。現状では,MTAはその優れた生体親和性と高い封鎖性を有することから,覆髄材の第一選択となり得るものです。MTAの優れた生体親和性と高い封鎖性という性質により,露髄面の面積が広い場合でも確実な止血状態が得られれば,覆髄により生活歯髄の保存が可能となります。

補綴前処置

近年,CAD/CAMそして3Ⅾプリンターの応用など,マテリアルの進歩に伴い,キャストメタルから審美性と強度に優れたe.maxやジルコニアなどのノンメタルの歯冠補綴物がトレントになってきました。これらのマテリアルも長所ばかりでなく,その短所にも注意しておかなくてはなりません。すなわち,キャストメタル以上に支台歯形成の良否で適合の精度が大きく変わること,咬合調整が難しいこと,対合歯に対する影響が未知であること,接着セメントの使用が必須となるが,その除去が難しいことなどにも注意しておく必要かあります。
 これら,多種にわたるマテリアルの長所短所を理解したうえで,患者さんのニーズにあった結果に導くためには,必要な補綴前処置があります。補綴治療に入る前にこのことを説明納得してもらったうえで,同意を得ておかなければなりません。そのためには,正確で適切な診断と患者さんのニーズにあった治療戦略の構築が必要になります。補綴治療の成功は,正確な診断とそれらを維持する健康な歯周組織と生体に調和した補綴形態と咬合関係の構築にあると考えます。補綴前処置はこれらに必要なことがらの大きな枠組みにすぎません。実際の臨床においては個々の患者さんにあった細かな詰めと,一つひとつのステップで妥協しないこだわりが,その結果の美しさと患者さんの満足度の向上に人きく影響することを理解しておかなければなりません。

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