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高齢者のインプラント治療

 高齢者のインプラント治療のリスクには二つの要素があります。一つは外科手術のリスクであり,基礎疾患を抱える高齢者への外科的侵襲によるものである。補綴治療の中でも特にインプラント治療は生活の質を改善することを主目的としているため,全身的背景からリスクが高い場合には選択するべきではありません。それゆえ、効果とリスクを天秤にかけて適用の是非を決定すればよく,適切な判断がなされれば大きな問題となりにくい。二つ目は、インプラント治療後に全身的変化を起こし,リスクが増し対応が難しくなることにあります。治療時に健康な人であっても加齢からは逃げられず,老化,疾病罹患は避けられません。特に高齢者は治療後短期間で全身的に大きな変化を起こすことが目に見えているため,治療時に様々な変化を想定した治療計画を立てなければなりません。
 日本人の高齢者の日常的基本動作の変化を捉えた追跡結果では,男性では約7割,女性では約9割が70歳代半ばから徐々に自立度が下がり,介護が必要となり死に至ると報告されています。日本人の9割は通院不可能になり最後を迎えることを意識して治療に当たらなければなりません。
 「終の治療」という概念があります。歯科治療としては広範囲な治療介入を必要とする口腔内に対して,セルフケアが難しくなること、そして,その延長線上にある介護されることを前提として,リスクの高い条件を可及的に減らしておくことをイメージしたものです。「終の治療」を何歳くらいから,もしくは,どのような状態になったら強く意識しなければならないのかを判断する基準は,いまだ明確ではありません。個々の患者さんにおいては、いくつかの要素から判断します。歩き方,話し方,口腔機能など診療室で観察できる項目,さらに,医療面接で食事の変化,外出の頻度、そして,体重,握力などの変化を重ね合わせて、ADLの低下を推測します。9割の日本人は外来受診できなくなることを医療従事者,患者さん,家族ともに意識し,人生最後の10年に備える必要があります。しかし、患者さんの価値観,経済状況によっても治療方針は大きく振れるため,常日頃から患者とよく話すことから始めなければなりません。

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