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超高齢社会における糖尿病重症化、歯科医療の役割

 予防対策における歯科医療の役割、超高齢社会の到来に向け,厚生労働省は糖尿病の重症化予防,とりわけ腎症の重症化予防に向け,2016年4月に日本医師会一日本糖尿病対策推進会議と共同で糖尿病性腎症重症化予防プログラムを策定し発表した。
 そのなかの,「実施上の留意点」の項においては,一般に高齢者,特に後期高齢者では脂肪組織が過度に成熟した状況は改善され,むしろ逆に低栄養状態が問題となるケースが多い.このような状況では,脂肪組織の成熟に伴う歯周炎症の生体への波及は問題とならないものの,栄養状態の改善が重要な課題となる。一般に,栄養の経口摂取は経静脈摂取に比べ,すみやかなインスリン分泌がもたらされること,その効果は栄養素が腸で吸収される場合にのみ一過性に観察されることが明らかとなっている。この背景には腸管上皮細胞から産生されるインクレチンと呼ばれるホルモンが関与し,このホルモンがインスリン分泌を促進することでもたらされることが解明されている。
 最近,同じ経口摂取でも,よく噛んで噪下したほうが,よりインクレチン分泌やそれに続くインスリン分泌量が多いことが示唆され,噛むという機能の重要性が再認識されている。噛むという機械的な刺激が重要なのか,より食物を噛み砕くことでインクレチン分泌を促進する口腔内の受容体を刺激する作用が大きくなるのかについて解明することは,今後の歯科医学研究における重要な課題と言える。
  中医協が示す歯科医療概念の変遷にある.「従来の健常者を対象とした審美の回復を重視した医療から,高齢者型の機能の回復を重要視した治療体系へと変遷しなければならない」との基本理念にも合致する。糖尿病との関連で言えば,高齢者の高カロリー輸液で急性の高血糖症候群を招-きやすいことから,高齢者では留意が必要であることは従来から言われていることであり,可能な限り栄養の経口摂取機能を維持し,インクレチン効果を期待することの重要性は今後さらに増してくると言えよう。食後のずみやかなインスリン分泌により摂取したエネルギーが効果的に筋肉に取り込まれるとすれば,フレイル予防にも寄与する。

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