ドクターブログ

歯科医療の今後

 昨今、先端医療研究が進展し、様々な疾患の発症機構の解明が進みつつあり、医学、歯学が経験の学問から科学へと発展しつつあります。一般に慢性疾患,特に加齢に伴って増加する疾患は、遺伝的素因(ゲノム)を背景とし、多くの環境因子が複雑に関わり合って発症すると予想されています。そしてこの先端医療を次の段階へ推進する鍵は、それらの基礎研究の成果を臨床に応用していくための基礎整備であります。それは一人の研究者や一研究室の力だけでできるものではなく,基盤となる施設と産学官連携によるコミットメントにより実現できるものです。また同時に、研究成果やこれまでの経験則を具現化するための環境整備も大切とされ、臨床的に要求される知識が急速に増える中、基礎研究からの膨大な情報量を効率的に学び,医療として実践するためのシステムの確立が求められています。
 歯科医療は、齲蝕があれば治し、歯が欠損すれば補綴処置をするという、治療がコアな医療です。しかし、これからは、齲蝕や歯周病の罹患率の低下に伴い,治療を主とする従来型の歯科医療の需要は減少していくと思われます。他の先進国でも,齲蝕や歯周病等の罹患率が減り、今後、歯科医療は大きな変遷のときを迎えるでしょう。
 今や先進国では「歯の齲蝕は人類が朽逐した疾患」と認識されつつあり,現在の歯科医療のニーズから日本の歯科大学定員は減少し,歯科医師の振り分けが進むことが予想されます。また,昨今の医療費の増大に起因する保険制度の民営化も叫ばれており,歯科医療においても自由経済の市場原理に基づいた変革の時が来ていると思われます。
 このように、歯科医療、医学の新たな役割が模索され始めています。すなわち,口腔に症状を呈する疾患やQOLを著しく低下させる疾患の予防と治療へ方向転換が求められており,特に先進国の医療では,大きな病気を治すという医療は専門医に委ねられ特化される一方で,生活習慣病やありふれた病気とともに,生活の質を上げるための医療とは何かが今後10年の課題と考えられています。

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