ドクターブログ

歯周病細菌が全身に及ぼす影響

 われわれの体の皮膚,粘膜の表面は細菌などの微生物によって覆われているといっても過言ではありません。とりわけ,口腔内と腸管内には多数の細菌が棲息しています。それらは共生細菌と呼ばれ,病原細菌の定着を阻止する役割を担っているばかりでなく,腸内においては,上皮のホメオスタシスと免疫系のバランス維持にも関与しています。したがって,口腔共生細菌の構成異常はう蝕や歯周病の誘発に,腸内共生細菌の構成異常はさまざまな疾患の誘発につながります。
 近年,口腔細菌叢の構成異常によって引き起こされる歯周病が,糖尿病,動脈硬化性心血管疾患など,さまざまな疾患のリスクを高めることが疫学研究により明らかになってきました。両者には,共通の疾患感受性,喫煙などの共通のリスク因子を有するために「関連」があるのか,「因果関係」があるのかについては決着がついていません。われわれは動物実験のデータから,口腔細菌が腸内細菌叢の構成異常を引き起こし,その結果,さまざまな疾患につながる病理学的変化が誘導されることを明らかにしました。歯周病がリスク因子となっている疾患を再確認し,提唱されている関連メカニズムとそれらの不十分な点,われわれが提唱する新たなメカニズムについて認識しておく必要があります。
 歯周病患者の追跡調査から,ベースライン時に重度であった歯周病患者は,糖尿病の新規発症リスク,HbA1Cの悪化度,合併症の頻度が高いことが報告されています。また,重度の歯周病を治療することでHbA1Cが改善することも報告されています。これには否定的な報告も存在するが,最近のメタアナリシスでは,歯周治療3ヵ月後の平均HbAlCの改善度は0.4%であることが示されました。しかし,歯周病がインスリン抵抗性を誘導するメカニズムに関しては明らかになっていません。インスリンのシグナルを阻害する因子としてはTNF-αが最もよく知られているが,歯周病患者の歯肉溝惨出液中や歯肉組織中のTNF-αレベルに関しては,増加しているという報告かおる一方で,健常者と変わらないとする報告もあります。また,血中レベルでも増加しているとする報告は少ない。歯周病患者では血中IL-6レベルが上昇しているが,IL-6は肝臓におけるC反応性夕ンパク(CRP)産生を誘導し,両者はインスリン抵抗性に関与することが知られています。こうした炎症性の因子が血糖コントロールに悪影響を与えていると考えられます。
 多くの研究が歯周病は動脈硬化性心血管疾患の発症率を高め,死亡率を増加させることを示しています。それら論文のメタアナリシスによると,歯周病は動脈硬化性心血管疾患と弱いけれども統計的に有意な関連をもつことが明らかになりました。すなわち,歯周病はよく知られた,喫煙,肥満,糖尿病,遺伝因子などの交絡因子とは独立した動脈硬化性心血管疾
患のリスク因子であるということがいえます。このことはアメリカ心臓協会のScientific Statementにおいても明瞭に示されています。その一方今のところ,歯周治療が動脈硬化性心血管疾患のリスクを低減する,あるいは予後を改善するという直接的な大規模データは示されていません。
 歯周病患者の血中では,動脈硬化病変形成との関連が認められている高感度CRP,IL-6,1L-I,IL-8,TNF-αなどの炎症マーカーの上昇が報告されています。さらに,以前より感染症と動脈硬化性心血管疾患の関連が報告されているが,動脈硬化プラーク中から歯周病原細菌のDNAが検出されていることは歯周病の関与を示唆するものと考えられています。

過剰歯と歯の先天性欠如と癒着歯の話

過剰歯
 過剰歯は,正常な歯数より多く存在する歯のことです.歯の発育段階の初期の障害により生じる異常で,萌出過剰歯は0.2~0.8%と少ないですが,X線写真で発見される埋伏過剰歯を含めると,上顎前歯部だけでも1~3%といわれています.好発部位は上顎前歯部であり,過剰歯の50~90%が上顎前歯部に発現すると報告されています.過剰歯の形態はさまざまであり,隣接歯とほぼ同様の形態のものから,倭小や円錐の形態を呈するものまであります.歯冠の方向により順生,逆生,水平に分けられ,順生か約50%を占めています.過剰歯が存在することにより,歯列・咬合の問題が起こりやすくなります.特に、前歯部の過剰歯は,正中離開や永久切歯の萌出障害,永久切歯の捻転や位置異常の原因になりやすいため,その状況を考慮した対応が必要になります.
《過剰歯への対応》
 萌出した過剰歯は,通常抜歯します.埋伏している場合は,永久歯の萌出や歯列・咬合への影響を考慮したうえで摘出時期を検討します.永久歯の萌出障害を起こしている場合(特に,反対側の永久歯が萌出している場合)は,早期の摘出が必要になります.また,すでに永久歯が萌出していても,過剰歯により捻転や位置異常がみられる場合も,まずは過剰歯を摘出してから歯列不正の改善をはかります.永久歯の歯根側や根尖部に存在する過剰歯は,できればCT検査を行って,永久歯の歯根と過剰歯の位置関係を診断し,摘出の時期や方法を検討することが望まれます.深在性の過剰歯の摘出は,全身麻酔下での処置が必要になることもあります.
歯の先天欠如
 歯の先天欠如は,乳歯では0.2~2.5%,永久歯では3~10%と,永久歯のほうが発現頻度が高いと報告されています大多数歯にわたる先天欠如は,外胚葉異形成症などの遺伝性疾患に関連することが多く,無歯症ともよばれます已少数歯の欠如は,乳歯では上下顎の乳側切歯に多くみられ,次いで下顎乳中切歯にみられます.永久歯では第三大臼歯が最も多く,次いで上下顎側切歯および第二小臼歯が欠如する頻度が高くなっています.乳歯が先天欠如している場合,後継永久歯も先天欠如することが多く,これは後継永久歯が先行乳歯の歯胚から形成されるためと考えられています.歯の先天欠如は,歯列・咬合に影響(歯列の空隙や歯列弓長の短縮,被蓋の問題など)を及ぼしやすく,また,乳歯が存在して後継永久歯が先天欠如の場合は,晩期残存した乳歯への対応が必要になります.
《歯の先天欠如への対応》
 乳歯の先天欠如に対しては,経過をみていくことが多いですが,被蓋の問題がある場合には,乳歯列のうちから被蓋改善をはかっておくという考えもあり
ます.また,乳歯列期のうちにX線写真で後継永久歯の有無などをチェックしておき,交換期には永久歯の萌出状況をみながら対処していきます.
 永久歯の先天欠如は,歯列・咬合の問題を考慮したうえで対処を検討し,特に,第二小臼歯の欠如に関しては,前歯部の叢生が著しい場合は矯正での対応が必要になり,歯列に問題がない場合は補綴またはインプラントでの対応を勧めます.後継永久歯が先天欠如した乳歯は,通常の歯根吸収は起こりませんが,思春期を過ぎた頃には歯根の短縮や低位化がみられやすくなり,なかなか一生保存することは難しいようです.
癒合歯
 癒合歯とよ2つ以上の歯が互いに癒合した場合をいい,結合状態から,癒着歯,癒合歯,双生歯に分類されます.発現頻度は乳歯でI~5%,永久歯で0.2~0.3%と報告されており,部位としては下顎の前歯部に多くみられ,乳中切歯と乳側切歯,乳側切歯と乳犬歯が多く,次いで上顎乳中切歯と乳側切歯が多くみられます.癒合歯の存在により,先天欠如と同様の歯列・咬合の問題が起こりやすくなるとともに,歯冠の癒合部に溝かあると,う蝕のリスクも高くなります.また,乳歯の癒合歯の後継永久歯は,正常に2本存在する場合と,先天欠如または癒合がみられる場合があり,下顎の乳側切歯・乳犬歯の癒合歯のほうが,乳中切歯・乳側切歯の癒合歯より,後継永久歯の欠如の割合が高いことが報告されています。
《癒合歯への対応》
 癒合歯の接合部の溝は清掃が困難なため,う蝕予防のために,早めに予防填塞を行うことが推奨されます.また4歳頃になったら,後継永久歯の数や発育状態をX線写真で確認しておくことが望まれます.
 後継永久歯の状況により乳歯癒合歯の歯根吸収不全が起こることかおり,特に永久歯が2本存在すると,それぞれの萌出時期が異なることから歯根吸収不全が生じやすく,癒合歯の抜去が必要となることがあります.癒合歯による歯列・咬合の異常に関しては,矯正的な対応も考慮します.

                                                                   

歯列接触癖(TCH)

 下顎骨は,筋肉(主に咀噌筋)を介して頭蓋・顔面にぶら下がっている状態で,開口時に,下顎頭は蝶番運動のみならず,筋肉のバランス下で前方滑走運動を行います。したがって,下顎の動きは筋肉により規制されることとなります。歯列接触(TCH)があると,筋肉が長時間収縮することで筋疲労が起こり,顎関節症をはじめとして頭痛・肩こりといったさまざまな症状が現れることがあります。また,筋肉の緊張状態に左右差が生じると,下顎骨が緊張側に引っ張られ,本来の顎位ではない位置で咬むようになり,顎位か不安定とれなります。したがって,TCHコントロールができれば,筋肉がリラックスした状態になります。
 関節円板の前方転位の有無にかかわらず,開口時に左右の下顎頭がスムーズに前下方に動くことで十分な開口量があり,強制開口させても顎関節に痛みがなく,しかも咬合違和感もないという,顎位か安定した状態を維持していることが,第一段階のTCHコントロールができたことになります。この状態になっていることは,次のようにして確かめます。術者が被検者の顎関節に手を添えて,スムーズな前方滑走・側方運動を確認、強制開口で顎関節に痛みが出ないことを確認、また下顎頭が前下方に動ききることで十分な開口量が得られているまたことを確認します。
 何らかの理由で長期間にわたり噛めない状態が続くと,筋肉が痩せて,下顎骨を一定の位置に支えるだけの力がなくなる.そうした症例では,食事をしようと頭を前傾しただけで,下顎骨が前下方に下がり、前歯だけが当たり,臼歯部で噛むことのできない事態に陥る.このことから,治療用チェアに寝かせた状態と起こした状態では,咬合位か異なる可能性が示唆されます。そこで,TCH是正咬合療法では,一般的に頭を起こした状態で上下の歯が触れる咀噌・嘸下・会話を行っていることから,治療用チェアを起こし,背筋を伸ばし,頭を垂直に保った状態で咬合位を決めます。この際,患者さんが緊張気味であれば,第一段階で脱力していただきます。これは,咀嚼筋の緊張により,本来の位置ではない位置で噛んでしまうことを防ぐためである.次に,軽くタッピングを続けさせた状態を,術者は詳細に観察して,いつも同じ位置で咬合していることを確認します。確認で
きたところで,対合関係が目視できる数箇所の咬合ポイントを見つけて,現在の咬合位の基準点として記憶します。
 TCH是正咬合療法は,関節円板や下顎頭の位置・形態などにこだわる必要がないので,すべての老若男女に適応でき,顎関節症の治療から生まれた療法なので,顎関節治療,顎関節症予防が可能になる.歯科医師が,顎関節症治療から歯科技工までも担当して,現在の口腔内に調和した補綴治療を行うことができるため,咬合違和感の発症を最小限におさえることができ,歯科医師としての技量がいかんなく発揮できる.
 この療法が中心となるTCHコントロールを習慣化させることで,顎位の安定だけでなく,次のような利点がある.
1.上下の歯が触れていない時間が長時間化しているため,咬合高径を上げる治療が可能となり,歯牙移動もスピーディに行る.
2.口腔内に加わる力が減るために,歯周病・歯牙破折・鎬蝕・インプラントの早期脱離・骨隆起・知覚過敏などといった口腔内疾患の予防に貢献する.
3.TCHコントロールに習熟することで,夜間TCHがあると目覚めるようになり,くいしばりやブラキシズム軽減に役立つ.

お問合せ