ドクターブログ

咬合力の影響

 口腔内の咬合力による力の影響、すなわち歯の咬耗や骨隆起、アブフラクション、頬粘膜の圧痕などがみらると睡眠時ブラキシズムと診断されがちです。
 現在、睡眠時ブラキシズムを減少させる治療法は無いとされ、咬合力の分散のため睡眠時にオクルーザルスプリントを利用しているのが現状です。しかし、咬合力の影響が睡眠時ブラキシズム以外の力によるものなのであれば、睡眠時のオクルーザルスプリントの利用は有効な治療法とはなりません。
 日常臨床のなかで解決困難な事象の多くは,“力”が関与している.“力”が関与していると推測されるヶ-スは,
①通常の歯周治療を行つでも治療に対して反応が不良,メインテナンス中の歯周病の再発
②修復物の破損一脱落
②歯の破折
④顎関節症
⑤インプラントの破損やインプうント周囲炎
などです。
 これらのケースでは,“力”の種類の特定や通常の治療に加えて,“力”の評価とコントロールが必要である.“力”の関与している場合は力のコントロールが十分行われないと,臨床の結果は時として予後不良となります。力は目に見えなく実体が把握しにくいので,研究もそれほど進展していないのが現状です。
1)睡眠時ブラキシズムの評価
 従来睡眠時ブラキシズムの評価は,問診,口腔内観察に加えて筋電図,顎運動装置,PSG(Poly-SomnoGraphy)検査による方法が行われてきたが,いずれも大掛かりな装置が必要であり,睡眠時ブラキシズムの確定診断は困難でした。問診・口腔内装置に加えて,患者にオクルーザルスプリントを装着させ,このスプリント上にできるファセットを観察することで睡眠時ブラキシズムを定量的,定性的に評価を行ってきた(池田式評価睡眠時ブラキシズム法)。睡眠時ブラキシズムの強さを,弱いB-1~強いB-3までの3段階で評価しています。
2)咀閣時の咬合力の評価
 池田式評価法により睡眠時ブラキシズムが弱いと診断された患者でも,歯根破折やクラスプの破損,頻回の補綴物の脱離等がみられることかおり,その上うな場合は,睡眠時ブラキシズム以外の力が疑われます。原因の一つには咀噌時の咬合力が考えられます。咀噌時の咬合力の評価法には,複製義歯を使用した方法や,咀閣時の咬合力評価用装置を用いてM1~M4の4段階の指標を設け評価する方法があります。
1)睡眠時ブラキシズムのコントロール
 睡眠時ブラキシズムの治療は,古くからさまざまな試みがされていたが,現在有効な方法はないといわれています。行動変容法である自己観察,自己暗示法,また両者を組み合わせた方法を行っており,睡眠時ブラキシズムを減少させ,その効果を持続させることに行っています。
2)咀噌時の咬合力のコントロール
 咀噌時の咬合力評価装置により患者がM1~M4のどのステージに該当するのかを評価し,咀噌時の咬合力が強いと評価された場合は,力を減少させることの重要性を患者に理解させ,力のコントロールのため,食べ方の指導を行う.コントロールを行った後の評価も重要です。
3)力を受け止める側への対応
 力への対策は,力そのものへのコントロールを行わずとも,力を受け止める側のみで十分な場合がある.そのようなヶ一スでは,力を受け止める側の治療として歯周治療,歯の固定,矯正治療,インプラント,歯の移植,力の分散を目的としたオクルーザルスプリント等があります。

アクティブエイジング 歯を残す重要性

 わが国では,隔蝕や歯周病の予防・ケアに関する知識が普及し,患者の口腔環境維持に対する意識は向上しています。平成元年から8020運動が開始され,平成23年には約40%近い後期高齢者が8020を達成していることも報告されています。
 一方で超高齢社会に突入した現在,平均寿命と健康寿命の間にある約10年という大きな時間差が問題視されている.健康寿命を延ばすため,高齢者の社会参画を促し健康を持続させるアクティブ・エイジングの考え方が展開されており,健康を持続させる重要な要素の一つとして「美味しく食べる」ことが挙げられます。また,経済誌のリサーチによる男女シニア1,000人に対する意識調査「リタイア前にやるべきだった後悔トップ20」(健康編)では「歯の定期検診を受ければよかった」が回答の第1位となっています。
 わが国でアクティブ・エイジングの展開とともに健康寿命の延仲が達成されるうえで,歯科医師の役割がきわめて重要であることを改めて認識させてくれます。歯科医師の役割は,良い口腔環境作りをサポートすることと考えます。そして,良い口腔環境を作るためには,シニア世代・高齢者にかぎらず,すべての世代・年齢層に対して「歯・歯髄を保存」する歯科医療を実践することが重要です。
 歯科医療はキュアからケアに,侵襲的治療から予防・メインテナンスによって健全な状態を維持するという考え方にシフトしていますが,いったん予防が破綻し扇蝕などの疾患が生じると,切削治療を行うことになります。現在ではMI(Minimal lntervention)の概念に基づき,「削って詰める,だめなら抜歯して義歯」という古い考え方から「できるだけ歯を削らず歯髄を保存する」という考え方に移行していますが,実際に歯・歯髄を保存できるか否かは,歯科医師の判断と技術に大きく左右されます。
 歯髄と窩洞との間に十分な健全象牙質が存在すれば,コンポジットレジン修復等を確実に行うことで審美的に機能を回復するとともに歯髄を保護できます。判断に迷うのは歯髄に感染等のダメージがどの程度及んでいるのか判断できない,覆髄か抜髄かの選択に迷う症例です。暫間的間接覆髄が奏功し,修復象牙質の誘導により歯髄を保護できればよいのですが、しかしながら,感染歯質除去後の露髄が大きい場合,患者の訴える症状は軽微だったので直接覆髄したけれど結果的に鈍痛等の症状が出て根管治療を行った,あるいは予後がはっきりしないので最初から抜髄を選択した,という経験を多くの歯科医師がもっているでしょう。
 抜髄や感染根管治療といった歯内治療の予後は,歯科医師の意識と技術に大きく影響されます。
歯髄保存療法や歯内治療には限界があるという前提で治療を進める必要がある.加えて,歯髄保存療法や歯内治療は根本的に「待つ治療」であることを認識しておかないといけません。歯髄保存療法では,客観的に歯髄の状態を診断できないので,歯科医師は知識と経験に基づいて歯髄保存を決断し,その後は歯髄が失活しないことを願い修復象牙質が形成されるのを待つしかない.抜髄や感染根管治療では,根尖歯周組織の状態を定量的に判断できないので,根管形成・洗浄・貼薬を徹底的に行って環境を整えた後は,根尖歯周組織が治癒するのを待つしかない.待ったうえで,歯髄あるいは根尖歯周組織が治癒に向かってくれない場合は,諦めて次ステップの治療(抜髄あるいは抜歯)を行う.
 現在,このような歯の治療における限界を克服するために世界中で診断法・治療法に関するさまざまな研究・開発が進んでいます。

お問合せ