ドクターブログ

糖尿病患者における歯内治療

 糖尿病は,「インスリンの作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」(日本糖尿病学会)とされ,わが国の推定患者数は1,000万人,予備軍を含めると2,000万人を超えるといわれています。糖尿病と診断されるには,まず患者さんが「糖尿病型」であると判断され,別の口に行った検査でもう一度「糖尿病型」と確認されて初めて,診断が下されます。
 糖尿病と歯科との関わりでは「歯周病」との関連性が示唆されており,コントロールされていない2型糖尿病患者において,歯周炎の発症や歯槽骨の吸収リスクが高まる歯周炎の重症度が高いほど血糖コントロールが困難になる、といった報告もされています。「歯内療法」に関連する事項としては,根管治療後の歯の生存率において,糖尿病
患者群はそうでない患者群と比べ,低いとされています。根管治療歯のうち,糖尿病患者は歯周炎をより併発しやすく,根管治療前に透過像を有する糖尿病患者の歯内療法の成功率は低かったという報告がある一方で,糖尿病は歯内療法の成功率に影響を与える明らかな因子とはいえない、との報告もあり,現時点では歯内療法と糖尿病との関連性を結論づけるには,エビデンスが不足していると考えられます。最新の文献では,根管治療歯の喪失に糖尿病が関与していることを示唆するものもあり・かつて「歯周病と糖尿病」の関連性が疑われつつも強いエビデンスがあまりなかった後に,それを関連づけるエビデンスが増えてきたことを考えると、糖尿病は歯内療法の成功率に影響を与える明らかな因子になりうる可能性は否定すべきではないでしょう。

大臼歯根分岐部病変

 大臼歯が歯周病で抜歯される原因として,根分岐部病変が発症し進行することが重要な因子になっているものと考えられます。過去の研究では,根分岐部病変がある大臼歯では根分岐部病変がない大臼歯よりも抜歯になっていることを発表しています。大臼歯の歯周治療の予後に重要なのは,根分岐部病変の治療をいかに成功させるかです。しかし,根分岐部病変の原因はまだ解明されておらず,したがって治療法も確立されていません。
 GlickmanやWaerhaugが根分岐部病変への咬合性外傷の関わりについて考察しています。Glickmanらは模型を用いた光弾性試験などの結果から,根分岐部は過剰な咬合圧が加わり,最も咬合外傷を受けやすい部位であるという考えを示していSB)ます。Waerhaugは,歯の動揺度や中心咬合位での早期接触態から,咬合性外傷のみの影響ではなく,根分岐部に付着したプラークによって炎症と浮腫が現れ,その結果,歯が挺出し外傷性病変が生ずるという見解を発表しています。さらにその後の研究から,現在では歯周組織の炎症と咬合性外傷とが合併すると歯周炎が進行しやすいと考えられており、根分岐部病変の、原因として炎症に加えて咬合性外傷が大きく影響しているではないかと推測される。
 しかし,Lindheの分類のⅡ度やⅢ度の高度の根分岐部病変を有するケースでも歯周基本治療のみで治癒させることができることや,歯ぎしり(SB)が関与しているLindheの分類のⅢ度でも歯周基本治療に加えてSBのコントロールが成功すれば治癒できるケースも経験するので,根分岐部病変への咬合件外傷の関わりを知ることは重要でです。

顎関節症

 顎関節症とは、日本顎関節学会による顎関節症の疾患概念によれば,顎関節症とは,顎関節や咀嚼筋の疼痛,関節雑音、開口障害ないし運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名である,と定義されています。
 さらに、日本顎関節学会によると顎関節症と診断するには,
1、顎関節や咀喘筋など(咬筋,側頭筋,内側および外側翼突筋のほかに顎二 腹筋,胸鎖乳突筋を含む)の疼痛、2、関節(雑)音、3、開口障害ないし顎運動機能異常の主症候のうち,少なくとも1つ以|こを有することとされています。
 日常の診療を振り返ったとき,顎関節部が開閉口時や咀嚼時などの機能時、基本的に顎関節症では安静時の自発痛はない,腫脹も伴わない)に痛むこと、咀嚼筋に機能時痛,圧痛があること・開閉口時に顎関節部に雑音がすることのいずれかの症状が認められた場合に,「顎関節症」を疑います。これがまずは診断の第一歩ですが,その際にしっかりと触診して疼痛部位(または範囲)を特定することは重要です。
 患者さんの言葉に惑わされることなく,解剖学的な構造を踏まえて「どこが痛いのか」「いつからなのか」「ひどくなったのか,良くなってきているのか」などを確認するのが重要です。また,それらが顎関節症の症状と矛盾していないことを確認します。顎関節症において比較的多く疼痛を生じる部位とは,やはり顎関節部と咀嚼筋,特に咬筋部と側頭筋部が多い。また,正常な開口量はどのくらいであり,どのようにして測定すれば良いのかを確認します。 しかし,「顎関節症を疑う.と述べたように,上記に挙げた症状を確認できたらそれで顎関節症であるご判断してしまうのは,早計である.実は顎関節部や咀嚼筋に疼痛を伴う疾患,開口障害を呈する疾患は非常に多く,それらの病態は多彩である。また,厄介なことに精神医学的要因も絡んでくることがら,ときに診断が非常に困難となることがあります。

インプラント周囲炎の外科処置と非外科処置

インプラント周囲病変に行う非外科的なデブライドメントは,インプラント粘膜炎には効果がみられる一方,インプラント周囲炎にまで進行すると治癒は限定的で,多くの場合,外科処置が必要となつまりります。
 非外科治療後,インプラント周囲の炎症のコントロールが達成されているかどうか,再評価を行う.炎症のコントロールが良好な場合はそのままメインテナンスへと進み,不良な場合には外科処置を行ないます。インプラントの保存が難しい場合には,除去しなければならないこともあります。
 インプラント周囲炎に対し行われる外科処置は,切除療法と再建療法の2つに分けられます。治療法の選択に際しては,インプラント辺縁骨の欠損形態に基づく治療チャートを提案します。骨欠損の形態が3,4壁性であれば再建療法。1,2壁性であれば切除療法が適応と考えられます。また,審美的要求の高い部位も再建療法が望ましいと考えます。
 現状では,インプラント周囲炎の治療は容易でなく,また有効な治療法についての続一見解もないため,術者によってさまざまな治療法が選択されています。

グラスファイバー補強高強度コンポジットレジンブリッジ

 CAD/CAMレジンクラウンやファイバー補強レジンポストコアなどの国民健康保険導入から,金属の使用率が徐々に減少してきた昨今,欠損に対する固定性補綴装置においてもいよいよメタルフリーの潮流が訪れました。これは,歯科業界を挙
げて真摯にメタルフリーに取り組み,材料の開発・進化を進めてきた結果と言えます。高強度コンポジットレジンが登場してから既に20年以上の歳月が経ち,インレーやクラウンとなって多くの臨床で用いられています。平成24年には,ガラス繊
維をフレームとして,高強度コンボジットレジンを補強したブ`リッジが先進医療の一つに採用された。これによって,高強度コンボジットレジンはいよいよ歯の欠損にまでメタルフリーで対応可能と認知されはじめ,広く国民医療に貢献できる可能性に期待が高まっています。この成果は平成30年度診療報酬改定に向けた医療技術の評価において,対応する優先度が高い技術として「評価すべき医学的な有用性が示されている」と評価され,第二小臼歯欠損症例に対する3ユニットブリッジとして保険対応可能となりました。

高強度硬質レジンブリッジ他の保険導入

高強度硬質レジンブリッジの保険導入をはじめとした新規歯科医療技術
先進医療技術からの保険導入として高強度硬質レジンブリッジが保険導入されました。ただし,適応は上下両側第二大臼歯4歯すべてが残存し,第二小臼歯欠損(ポンティック)で両隣接歯(第一大臼歯,第一小臼歯)支台のブリッジか,金属アレルギー患者(医科からの診療情報提供の場合に限定)の臼歯1歯中間欠損での支台2歯に限定されます。また,装着時の内面処理加算として,高強度硬質レジンブリッジには90点の加算が新設されました。咋年12月から導人された臼歯用のCAD/CAM冠の場合も,上下顎両側の大臼歯が残存し,左右の咬合支持がある患者に過度な咬合圧が加わらない場合などに下顎第一大臼歯に限定されて適応されていました。
 なお,前回の改定で導入された「有床義歯内面適合法」による軟質材料を用いた場合の技術については,歯科技工士が院内で当日または翌日に床裏装を行い,歯科医帥が装着を行った場合の項目が新たに設けられました。同時に,施設基準において歯科技工上の常勤換算での配置に基準が緩和された。この技術の材料料は,4月から請求が可能となりました。
 このほかにも歯科医療技術については,各学会から提案された一部が今回の改定で新規技術として導入されました。口腔外科領域では,レーザー照射を伴う口腔粘膜処置や手術時のレーザー機器加算が新設されたほか,埋伏歯開窓術が新設されました。また,矯正関連では筋ジストロフィーや3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常(前歯骨性埋伏歯によるものに限定)が保険給付対象として追加されたほか,スライディングブレードが新設されました。

年末年始の休診

年末年始12月31日(火)~1月5日(日)休診させていただきます。
12月30日(月)は通常診療いたします。

子供の発音障害

口唇の閉鎖不全(安静時に口唇閉鎖を認めない)
 保護者には,子どもの上下の唇の問に,いつも隙間がないかを確認します。上下の口唇にうっすらと隙問がある程度でも口唇閉鎖不全と考えます。視診で口腔周囲筋,口唇の筋緊張の有無(無力唇)を判断します。緊張から口を閉じている子ども
、口唇閉鎖を指示した際にオトガイに緊張がみられる場合は,口唇閉鎖不全を疑います。そもそも,自分のこどもが「いつも口が開いている」ことや,開いていることが問題だと認識している保護者は少なく,まずは,通常は口唇は閉鎖しているもので,そうしなければ歯列や発音に問題が生じる可能性があることを説明する必要があります.。口唇が閉鎖していないときは,舌も低位にあることが多く,舌の機能にも問題を生じていることがあります。
 乳歯列完成期以降(3歳以降)に,吸指癖,舌突出癖,弄舌癖,咬唇癖,吸唇癖などが頻繁にみられる場合,話す機能にも影響がないかを確認します。舌の位置や運動に問題がある場合、その部分のトレーニングをしてみます。その後,かみ合わせを治す検討をしましょうと伝え,この場合も,MFTと発音のトレーニングを勧めることがよいと考えます。爪咬みなどの癖がある場合も低位舌であることがあります。爪咬みをやめると歯並びが整い始め,再開してしまったら再び歯並びが悪くなったという資料を子どもに見せ,習癖を除去する支援をします。

根管治療へのNi-Tiファイル応用

 Ni-Tiファイルを使用する理由の第一義として,湾曲根管に対し,追従性の高い根管形成を行うことが可能であることがあげられます。ステンレススチールファイルは,その材料学的観点から,Ni-Tiファイルに比較し柔軟性に乏しいため,レッジやトランスポーチーションなどのエラーが生じやすく,湾曲根管の根管形成は,技術的な困難を伴っていました。しかし,NiTiファイルは低い弾性率,超弾性や形状記憶などの特徴を有し,湾曲根管に対して優れた追従性を有し,本来の根管形態を維持したまま根管形成が可能となりました。
 しかし一方で,先に示したように,臨床医における根管治療の成功率は,NiTiファイル使用前後において変わりません。その傾向は,歯内療法専門医や病院歯科においても変わらないようです。つまり,湾曲根管に対し追従性の高い形成ができるとしても,それがすなわち根管治療全体の成功率を向上させるわけではないということなのです。
 ここからは少し視点を変え,NiTiファイルによる根管形成で達成可能なことは何なのかについて考えます。Petersらは,根管形成によって,ファイルが実際に根管壁に触れる範囲は非常に限定的であり,もともとの根管形態にもよるがおおむね30%以上の根管壁が未接触のまま残ることを報告しています。つまり,全周まんべんなく機械的根管形成を行うということは,理論上非常に困難だということです。
 また,根管形成による根管内細菌の減少はどうでしょう?
Daltonらは,実際に根管治療を行った歯の根管形成前,根管形成後の根管内容物をペーパーポイントにて採取し,培
養,細菌数を計測したところ,根管形成による細菌減少は,Ni-Tiファイルとステンレススチールファイルに差はなかったことを報告しています。根管形成自体,象牙質を切削できる範囲に制限があり,細菌の減少も従来のステンレススチールファイルと変わらないのであれば,Ni-Tiファイルを使用すればより良好な予後で経過するとはいいがたいことになります。
 Ni-Tiファイルを使川することによる明らかな臨床上の有用性は,効率である。Buchananらは,理想的な根管形成に到達するために従来のステンレススチールファイルとゲーツグリッデンドリルを使川した場合には15~18種類の器具を使用
し,47~63工程を踏む必要があったことを記しています。しかし,NiTiファイルを使用すれば,同じような根管形成がわずか数本のファイルによって達成できるのです。
 以上から、Ni-Tiファイルを臨床で使用する有用性は,湾曲根管における追従性の高い根管形成と効率化のためにあり,Ni-Tiファイルの使用が治療成績に直接関与しているかはわからない。

化学的根管洗浄効果NaOCl

NaOCl水溶液
 洗浄作用と殺菌作用、根管洗浄液としてのNaOCl水溶液は,タンパク質分解能,抗菌性,優れた有機質溶解能,潤滑材といった役割をもっています。そのメカニズムは,主成分である水酸化ナトリウムと次亜塩素酸によって引き起こされる。まずNaOCl水溶液は,脂肪酸を脂肪酸塩(いわゆる石鹸)とグリセロール(アルコール)に分解する鹸化反応を起こします。これにより,残りの溶液の表面張力を低下させます。薬剤の広がりを助けるとともに,根管壁面に吸着して根管内のデブリと置き換わって浮き上がらせる。また,水酸化物イオンはpHが高い領域でタンパク質や油脂類,多糖類などの広範囲の有機質に対してすぐれた溶解能を示し,次亜塩素酸イオンはこれに相補的に働き,洗浄効果を増強させます。
 細胞に対しての作用として,水酸化物イオンは細胞壁や形質膜を形成するムコ多糖やタンパク質,リン脂質,不飽和脂肪酸などを局所的に分解し,構造を変化させる.この部位から次亜塩素酸イオンが細胞内に介人し,必須酵素のSH基やアミノ基を酸化してその機能を阻害する。また,細胞内に侵入した次亜塩素酸はDNAを損傷させ,DNA合成を阻害する。
 温度と有機質溶解作用はNaOCl水溶液は温度上昇に伴い,その有機質溶解能を強める.Abou-Rassらは5.25%のNaOCl水溶液では,23℃Cのときよりも60℃のときのほうが8.9倍壊死した有機質を融解したと報告している。スメアー層も温度が高いほうが薄くなるという報告がある。
 また,温度上昇に伴うもう一つのメリットは,水溶液自体の粘性の低下である。粘性が低下することで細い洗浄針や根管内を流れる根管洗浄液の液量は増大する。つまり,根管洗浄液の還流速度が大きくなるということであり,常に新鮮な根管洗浄液を継続的に供給したい根管洗浄では,メリットとしてとらえられます。
 一方,温度が高い状態で長期間保管すると,NaOCl水溶液の分解速度が大きくなり,有効塩素濃度の低下が早まるため,常時加温された状態での保管はお勧めできない。使用するNaOCl水溶液をシリンジに入れて温浴につけて加温する方法,あるいは口腔内写真撮影用ミラーのミラーウォーマーなどで短期問に使用する分だけを加温しながら保温する方法などが考えられます。次亜塩素酸のもつ洗浄作用が60℃を超えると減少するため加温する温度としては50~60゜C程度が良いとされています。Ruddleは家庭用のコーヒーウォーマーを用いて加温する方法を紹介しています。
  NaOCl水溶液の有効性の指標として,有効塩素濃度があげられます。NaOCl水溶液の有効塩素濃度は時問をおくほどに減少します。それでは,実際にどのくらいの速度でその有効塩素濃度は減少していくのだろうか.まず,NaOCl水溶液の分解は二次反応に当てはまり,初期の有効塩素濃度が大きいほど分解が速く進みます。30℃で保存した12%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液は,30日後にはおよそ9.5%となる。一方,6%のものは30日後で:ま305.5%程度である。そして長期にわたり保俘した場合,およそ3%程度を限度に.分解はあまり進まなくなる。また,12%のNaOCl水溶液の有効塩素濃度が2%程度下がるまでの時間は、30℃でおよそ20日,2020℃でおよそ80日となり,温度が高いほうが分解されやすい、これらの結果から,NaOCl水溶液は涼しいところに長期にわたり保管した場合は,およそ3%の濃度になっていると考えれば良さそうである。
 NaOCl水溶液は0.5%から6%までさまざまな濃度が用いられているが,殺菌作用は濃度にはあまり依存しません。一方.組織溶解作用は濃度が高いほど大きくなる。象牙細管へのNaOCl水溶液の浸透効果については濃度・温度・時間に依存して効果が上がるが,大きな期待はできない。たとえばNaOCl水溶液への接触を20分間したものと2分間したものでは,象牙細管への効果は10倍ではなくおよそ2倍にとどまり,濃度や温度についても同様に,あまり大きな差を示さない。洗浄に用いるNaOClの濃度より乱殺菌作用を考慮すると洗浄液量のほうが重要である。たえず新鮮な根管洗浄液を供給することは,有効塩素濃度の低さを十分補うことができ,洗浄効果の増強を望むことができる。
 根管洗浄にかける時間について,現在はまだ答えが出せないが,根管内に満たしたNaOCl水溶液は3%程度の濃度があってもおよそ2分で組織溶解能は失われていくため継続した洗浄液の交換が必要です。NaOCl水溶液はいわゆる根管洗浄液として、根管形成の合間に時々流すというものではなく、根管形成、根管洗浄の術式の間、常に使用すべきです。歯髄腔にNaOCl水溶液を常に満たして根管内への根管洗浄液の供給源として利用すべきであり,頻繁に薬液が交換されることでその化学的効果を維持
することを期待できる。

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