ドクターブログ

CADCAM冠の可能性

 CADCAM冠と従来から使用されていた全部金属冠やレジンジャケットクラウンとを比較すると,それらの違いは製作方法と構成材料に集約されます。しかしながら,その違いの背景は非常に複雑であり,CAD/CAM冠トラブルの解明を困難なもとのしています。また,CAD/CAM冠はメタルクラウンと比較して人きなクリアランスが必要であるため,同じ大きさの歯であったとしても支台歯は小さくなります。さらに,スキャニング精度を担保するために,形状が大きく変化する箇所から角を取り去って,極力丸みをもった形態と連続性が保たれた辺縁が求められます。
 CAD/CAM冠は対合歯とのクリアランスを多めにとる必要があるため,軸面の高さは低くなる傾向があります。つまり,必然的にCAD/CAM冠は支台歯形態がもっていなければならない維持力が損なわれるため,脱離の確率が高いクラウンと言えます。従来であれば,そのような支台歯形態に対して補助的保持形態の応用で対応してきましたが、現状ではスキャニング・ミリング精度の低下を招くため付与することができません。
 今後,CAD/CAMシステムが進化していくなかで,新しい発想のCAD/CAM特有の保持形態付与つまり冠内面への補助的保持形態として付与された横溝リテンティブグルーブに関する改良が期待されます。また,機器のオープン化に対応すべくスキャナー,設計プログラム,加工機それぞれに対する補正,データ変換後の補正,さらにさまざまな機器の組み合わせを考慮した補正値の確立が求められます。
 平成29年12月に収載された下顎第一大臼歯CAD/CAM冠への対応策として,物性を向上したコンポジットレジンブロックが発売されました。これらの登場により,症例によってはCAD/CAM冠に必要とされているクリアランスを減少させられる可能性があります。
 CAD/CAM冠では早期破折の報告は非常に少ない.もちろん,レジンはセラミックと比較して靭性が高いという特徴を有する材料ではあるが,その破壊様式は脆性と判断して問題はないであろう。材料学的に脆件材料は,その装置自体の総合的な強度を接着補強によって担保し,接着不良ぱ破折やチッビングとして現れることが一般的でした。脱離した多くのCAD/CAM冠が再装着可能であったということは,破折に対する高い抵抗性を有する可能性を示している。また,マージン形態の違いがクラウンの応力集中に及ぼす影響はレジンクラウンでは非常に小さい応力集中を示した。そして,ナイフエッジのような非常に薄いマージン形態であっても,同様の傾向を示し,セラミッククラウンと比較して少ないマージン部クリアランスが許容できる可能性があります。形成量の減少がCAD/CAM冠の生活歯への応用を容易にする要素となり,補綴領域におけるミニマルインターペンションをより実現化できる可能性があります。
 CAD/CAM冠は,石膏模型をラボスキャナーにて形状計測し,取得されたデジタルデータを基に製作されます。この方法では,加工された補綴装置の最終的な調整は石膏模型上で行われていた。そのことにより補綴装置の適合は担保され,口腔内での長期的な予後に貢献してきました。一方で,現在CAD/CAMシステムにけ腔内スキャナーを用いる機会が増加しています。口腔内スキャナーは直接口腔内のデータを3次元化するため,石膏模型は製作されません。そのために従来模型上で行われてきた補綴装置の最終調整は,口腔内にて行われることとなります。このことから,口腔内スキャナーによるCAD/CAMシステムを用いる際にラボスキャナーによるCAD/CAMシステムと同程度以上の適合精度を求める場合は,機器に対する理解を深めることが必要とされます。また,ラボスキャナーによる形状計測から切削加工までを行うCAD/CAMシステムは,メーカーから推奨された組み合わせとなっていることが多い。そのことで各工程における機器の誤差が生じても,最終的に良好な適合精度を担保できることもあります。
 従来の口腔内スキャナーは,口腔内の形状計測から補綴装置の加工までを一つのシステムとしており,そのなかでさまざまな補正が組み込まれています。しかしながらシステムのオープン化が進むことで,口腔内スキャナー,CADソフトウェア,CAMシステムおよび加工材料は多種多様な組み合わせが可能となってきています。今後のCAD/CAMシステムにおいては,さまざまな機器を選択するにあたり,各工程の機器の特性や誤差について把握することが重要と考えます。
 CAD/CAM冠に限らず,これからのCAD/CAMシステムを用いて製作される補綴装置は,デジタル技術の向上とともにより良い適合精度を示していくことと考えられます。その補綴装置を十分に臨床に生かすためには,術者の材料とシステムに対する深い理解と対応が必要であると考えられます。

再生歯内療法

今後の歯科医療は,歯や歯髄組織を不活性材料で置換する「修復治療」から,「再生治療」へと問違いなく移行していくてあろう。現在までの歯科医療は,齲蝕や外傷などにより失われた歯質,歯髄組織を不活性材料にて置き換えることが第一選択とされ,世界的に普及しています。一方で、再生歯内療法RET:(損傷された象牙質,根管構造,歯髄ー象牙質複合体の細胞を含めた組織を生理学的に置換することを目的とした生物学に則った治療法)であると定義されている。つまり,RETは歯質や歯髄組織の生物学的再生を誘導することであり,従来の治療方法とは一線を画するものです。
 RETはRET2011年にはAmcrican DenlaI Assocjation (ADA : 米国歯科医師=会)により正式な治療法として認められており,2014年から米国人学歯内療法専門医課程において必須項目として臨床教育が行われている.齲蝕や外傷,中心結節といった発育異常などにより歯髄感染,歯髄壊死が起こり得るが,特に根未完成幼若永久歯の場合,治療難易度が高くなります。このような症例に対して,従来であればアベキシフィケーショッが施されていたが,現在ではRETという選択肢が検討されるようになRETりました。
 従来法アペキシフィケーションは水酸化カルシウムの長期的な貼薬を行い,アピカルバリアを形成し,根管充填を行テ方法でした。アペキシフィケーショッは90%以上の高い成功率が報告されているが,次に示す三つの問題点があります。
1.アビカルバリア形成のために,水酸化カルシウムの長期間貼薬が必要となる(3~24ヵ月).
2.数回の来院が必要である.
3.水酸化カルシウムの象牙質に対する影響が懸念される
 これらの問題を解決するために,MTAセメントによりアピカルバリアを形成する方法が提唱された(MTAアペキシフィケーショッド)しかしながら,アペキシフィケーションでは臨床症状,根尖病変の改善は認められたとしても、治療後に歯根形成,特に歯根歯質の厚みの増加を期待することができません。
一方でRETでは継続した歯根形成、痛覚、免疫系の再生を期待できると考えられています。

100年時代のインプラント治療

 インプラント治療が終了している高齢患者に対する対応にしても,これからインプラント治療をする高齢患者への対応にしても,生活の場と長期的な予後を考慮した治療計画を立てる必要があります。
 当たり前ですが、インプラントの治療を行う際には,最後までそれを見届けるという歯科医帥の覚悟も必要。そうであっても,患者の所在が不明となってしまうことや遠方の施設へ転居されてしまうケースもあります。そのため,歯科医院での管理が困難になった時のことを考え,単純で設計変更が容易になるようにし,患者本人や介護者が清掃を行いやすいよう配慮することは必要と考えます。インプラント上部構造の整備だけでなく,口腔衛生指導,咀嚼指導,栄養指導など口腔,食を取り巻く周辺環境を含めた口腔管理をしていかなければなりません。
 一方,寿命の延伸とともに,歯の欠損は減少し,インプラント治療の出番も低下することも予想され、不幸にも歯の欠損が生じれば,補綴の第一選択はインプラント治療になるでしょう。そして新たな欠損を生じないような口腔管理,少数歯欠損のインプラント治療後の長期管理が重要になってくるでしょう。

東京矯正歯科学会春季セミナー

平成31年4月18日(木曜日)東京矯正歯科学会春季セミナーに参加してきました。
テーマは「早期治療における叢生歯列の拡大を再考する」です。

8020歯周炎

厚生省(当時)によって推進されてきた8020運動も,今年で30年となり,80歳以降のその割合も2016年の歯科疾患実態調査では51.2%になりました。歯の保存に対しては,臨床医の努力と患者さんへの啓発により,ある程度の成果がみえてきているのではないでしょうか。しかしながら,成人の歯周病の罹患率は,35歳以降で40%を超え,高齢になるにしたがって増加傾向を示しています。
 2015年日本歯周病学会のガイドラインの歯周病の分類には,「慢性歯周炎」と「侵襲性歯周炎」があります。その大半は慢性歯周炎であり,炎症と咬合のコントロールをするにとである程度改善することが可能です。しかしながら難治性歯周炎といわれる侵襲性歯周炎や広汎型重度慢性歯周炎は治療の反応も悪く,機械的歯面清掃と抗菌薬の併用など治療に苦慮することが多い。それに加え、歯ぎしりなどのパラファンクションのある患者の予後については,治療結果を読むことが非常に困難です。また高齢化に伴い,糖尿病をはじめとする全身疾患をもつ患者さんも多く,治療の制限を求められることもしばしばあります。

院内感染対策

院内感染とは,「病院や診療所などの医療機関内で,もともとの疾患とは別に,新たに細菌やウイルスなどの病原体に感染すること」をいい,これには,患者さんが感染する場合のみでなく,医療従事者が感染する場合も含みます。
 院内感染で注意すべき病原体としては,血液・体液を介して感染するウイルス,複数の抗菌薬に耐性をもつ多剤耐性菌および集団感染を引き起こす細菌やウイルスなどがある。院内感染を防止するためには,医療従事者およびスタッフ一人ひとりが正しい知識をもち,標準予防策を基本とした対応を。令貝が確実に行うことが重要です。
 歯科治療に伴って生じる感染では,消毒,滅菌処理が不十分な器械・器具の使用や,医療従事者の手指衛生の不十分が原囚として考えられます。また,切削時の血液・唾液の飛沫や,汚染されたグローブでの環境への接触は,感染源を拡大する可能性があります。診療室での流行性疾患の蔓延では,流行性ウイルス感染症に罹患した患者から歯科医療従事者,あるいは患者問,さらに歯科医療従事者から患者への感染の可能性があります。 では,どのような対策を講じれば良いのか。感染対策の基本である「感染予防の三原則」について説明します。感染成立の因子は,病原体。感染経路,感染性宿主の3つの存在があり,この3つの因子に対して対策がとられます。感染予防の三原則として⓵病原体の除去,⓶感染経路の遮断、⓷感染性宿主の抵抗力増強が挙げられます。世の中から感染源となる病原性微生物を除去することは不可能であり,感染性宿主に対するワ
クチン接種も効果は確実ではありません。したがって,この中では感染経路対策が重要かつ基本となります。
 患者さん,医療従事者,感染性宿主の関係において,感染経路の遮断をすることで感染対策が確実となります。その基本となるのが「標準予防策」です。

2019年新年

 あけましておめでとうございます。
1月5日(土)より通常診療いたします。
本年もよろしくお願いいたします。

舌苔について

 舌の表面には通常、舌苔という付着物が存在します。舌苔は,舌の特殊粘膜である糸状乳頭が脱落した細胞片と,口腔微生物の凝集塊である。糸状乳頭は新陳代謝が旺盛で,3~7日で新しいものにとってかわられます。
 口腔粘膜は,通常14日程厦で新しいものと入れ替わります。そのスピードは,皮膚とは異なり非常に速い。なかでも舌背の糸状乳頭は前述したようにそのスピードが速く,3~7日のサイクルとされる。剥離した糸状乳頭の古い組織片は細菌などとともに集積し,舌苔を形成します。
 舌苔の形成機序は実験的には解明されておらず,傍証からの推論の域を出ないため,根拠は弱い、一般的に考えうる形成機序については,唾液中に含まれる脱落上皮細胞に細菌が作用し,細胞の破壊が進み比重が重くなり,舌乳頭に沈殿するようになります。この沈殿の細胞タンパクや細胞に付着する細菌などの産生物が舌苔の付着因子となります。
 さらに舌苔の成長因子として,口腔上皮の代謝回転,歯周病,口腔内微生物,舌上皮細胞の過角化などが関与しています。最近になって,舌上皮細胞を維持し,障害時に修復も担当する舌幹細胞か同定されました。
 舌苔は通常,薄い白色です。前述の舌苔形成機序によって生じた,いわば生理的舌苔ですが,その発生要因は,①舌の摩擦に関与する粗大な固形食餌の摂取が制限される消化器疾患,睡眠,昏睡、②舌の摩擦に関与する咀嚼運動を低下させる睡眠,昏睡,口腔内疼痛性疾患の存在,③舌の摩擦に関与する舌運動を低下させる睡眠,昏睡,口腔内疼痛性疾患,口呼吸,舌の神経麻痺、④唾液分泌を低下させる唾液腺疾患,分泌神経障害,薬物障害,睡眠,昏睡,発熱,脱水,神経性興奮、⑤舌の湿潤を低下させる口呼吸,脱水、⑥舌栄養に障害をきたす低タンパク症,貧血、ビタミンの欠乏、⑦口腔内細菌叢に変化を生ずる口腔感染,抗生物質使用、⑧舌上皮の剥離を起こす炎症性疾患,アレルギーなどがあります。

インプラント義歯

インプラント固定性補綴は1歯欠損から無歯顎まで適応可能であり,症例選択を誤らなければ,予知性も高く機能性に優れ異物感もほとんどないことから,患者満足度の高い補綴方法として認知されています。しかし,インプラント固定性補綴を行った患者さんも絶対にエイジングは避けられないことから,通院困難になる直前や初期の認知症を患った時点で,固定性補綴から可撤性への移行も検討する必要がある。
 一方,全身状態や解剖学的あるいは経済的制約によりインプラント固定性補綴ではなく。当初より可撤性補綴が選択される場合も少なくない。特に可撤性には固定性にはない非常に大きな利点があり,インプラントデンチャーの適用を優先的に検討する必要もあります。さらに 少数本のインプラントを支台とするインプラントデンチャーは,インプラント埋人による咬合支持域の確保や支台間線エリアの増大により,劇的に可撤性義歯の機能と安定性を向ヒさせることができる。したがって,従来のように欠損に対してインプラントか義歯かの二者択一ではなく、年齢や口腔内環境,ライフステージに調和した両者の複合利用を図ったインプラントデンチャーを再考する必要があります。

高齢者のインプラント治療

 高齢者のインプラント治療のリスクには二つの要素があります。一つは外科手術のリスクであり,基礎疾患を抱える高齢者への外科的侵襲によるものである。補綴治療の中でも特にインプラント治療は生活の質を改善することを主目的としているため,全身的背景からリスクが高い場合には選択するべきではありません。それゆえ、効果とリスクを天秤にかけて適用の是非を決定すればよく,適切な判断がなされれば大きな問題となりにくい。二つ目は、インプラント治療後に全身的変化を起こし,リスクが増し対応が難しくなることにあります。治療時に健康な人であっても加齢からは逃げられず,老化,疾病罹患は避けられません。特に高齢者は治療後短期間で全身的に大きな変化を起こすことが目に見えているため,治療時に様々な変化を想定した治療計画を立てなければなりません。
 日本人の高齢者の日常的基本動作の変化を捉えた追跡結果では,男性では約7割,女性では約9割が70歳代半ばから徐々に自立度が下がり,介護が必要となり死に至ると報告されています。日本人の9割は通院不可能になり最後を迎えることを意識して治療に当たらなければなりません。
 「終の治療」という概念があります。歯科治療としては広範囲な治療介入を必要とする口腔内に対して,セルフケアが難しくなること、そして,その延長線上にある介護されることを前提として,リスクの高い条件を可及的に減らしておくことをイメージしたものです。「終の治療」を何歳くらいから,もしくは,どのような状態になったら強く意識しなければならないのかを判断する基準は,いまだ明確ではありません。個々の患者さんにおいては、いくつかの要素から判断します。歩き方,話し方,口腔機能など診療室で観察できる項目,さらに,医療面接で食事の変化,外出の頻度、そして,体重,握力などの変化を重ね合わせて、ADLの低下を推測します。9割の日本人は外来受診できなくなることを医療従事者,患者さん,家族ともに意識し,人生最後の10年に備える必要があります。しかし、患者さんの価値観,経済状況によっても治療方針は大きく振れるため,常日頃から患者とよく話すことから始めなければなりません。

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